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基礎知識 2022.3.11 UP

1.同性愛者はどれぐらいいるのか

欧米では、全国レベルで実施される疫学的研究の中で、同性愛に関する質問項目も設けられることが多く、一般人口に占める同性愛者の割合がほぼ明らかになっているといってよいと思われます。

日本でも数千人を対象とした調査で、「同性と性的接触をした経験のある人々」の割合が調べられたことがあります。なにを「同性愛」の指標とするかによりますが、これらの研究における数字は、1%から10%ぐらいまでの幅があります。我々の実感からしても、少なく見積もっても、日本でも50人に一人ぐらいの割合で同性愛者がいるだろうと思います。

2.日々、同性愛者と顔を合わせているはずだが、「出会って」はいない

同性愛者は少なくとも50人に一人はいるはず、にもかかわらず、日本ではいまだに「私はこれまで同性愛者に会ったことがない」「少なくとも私の身のまわりでは見かけたことがない」という人々が大半です。

以前と比べると、カミングアウトをする同性愛者は増えてきましたが、ホモフォビアがあるために、まだまだ職場・学校・家庭で、ふだん会う人々にカミングアウトをしている同性愛者は少数派です。そのため、ふだんの生活の場で毎日、同性愛者の同僚・知人・友人と顔を合わせていても、そうとは知らずに会話を交わしている場合が大半です。

それが故に、同性愛者は「どこか別の世界にいる特別な人たち」という世間一般の認識がなかなか消えないように思われます。

3.なぜ、ある人は異性愛者になり、ある人は同性愛者になるのか

性指向を決める要因は、まだ確定されていません。

数十年前の米国においては、ある個人の同性愛の起源を、生育史的に、母親や父親との関係に見出そうとする、精神分析的な見方が主流であったようです。1990年代のはじめには、脳の視床下部のある部位の構造や、X染色体上のある領域の遺伝子が、性指向に関係していることが示唆されたことがありましたが、その後十分な追試の研究が行なわれているとはいえないようです。

今のところ、なぜ、ある人は異性愛の性指向を持つようになり、ある人は同性愛の性指向を持つようになるのか、その要因は確定されていません。

4.同性愛者を異性愛者へと変えることは可能か

米国には、精神分析や(学習理論に基づく)行動療法が、同性愛者を異性愛者へと変えるための心理療法として行なわれていた歴史があります。行動療法では、同性の裸の写真をクライエントに見せて、その後に電気ショックや嘔気をもよおす薬物を与えるという、嫌悪療法が用いられていたことがあります。

その同じ米国で、1990年代後半になってから、相次いで、American Psychological Association(米国心理学会)やAmerican Psychiatric Association(米国精神医学会)などの専門家団体が、同性愛を異性愛へ変えようとする心理療法(reparative or conversion therapy)に関して、その効果に対する疑問を呈したり、その有害性を指摘する内容の公式声明文を発表しています

それまでの米国において、世間一般の偏見や心理療法家のなかにある偏った価値観に従って、reparative or conversion therapyが無批判に提供されてきたことへの反省の意が、そこには込められているようです。「心理療法によって、同性愛の性指向を異性愛の性指向へと変えることが可能であることを示す十分な実証的なデータはない」というのが現段階での結論のようです。

さらにそこで強調されていることは、「なぜ同性愛を異性愛へと変えようとするのか」「そこに、心理療法家のホモフォビアが反映されていないか」「クライエントの、内面化されたホモフォビアを助長することにならないか」、そういった諸点について倫理的な吟味をすることなく、reparative or conversion therapyをクライエントに提供してはならないというのが、現在の米国の心理療法家たちの姿勢であるようです。

5.精神医学団体の同性愛の扱いの変遷

DSM-II(米国精神医学会の診断基準第2版)までは「人格障害」の分類にふくまれていた「同性愛」は、1973年、DSM-IIIからは精神障害ではないとして項目から外されました。その後も残されていた「自我違和性同性愛ego-dystonic homosexuality」も、1987年、DSM-III-Rでは削除されました。

ICD-10(国際疾病分類)からは、1993年に疾病分類の項目から「同性愛」が外されています。日本精神神経学会は、市民団体からの求めに応じ、1995年に、「ICD-10に準拠し、同性への性指向それ自体を精神障害とみなさない」という見解を明らかにしています。

6.同性愛者のメンタルヘルスの状況

欧米では、やはり全国規模の疫学的調査において、同性愛者のメンタルヘルスについても調べられています。それによると、不安障害・気分障害・希死念慮などが、一般人口よりも同性愛者人口においてより高い割合でみられています。

日本でも数千人のゲイ・バイセクシュアル男性を対象にインターネットを使って行なわれた調査において、ゲイ・バイセクシュアル男性の、特性不安・抑うつ・孤独感が有意に高く、セルフエスティームが有意に低いという結果が出ています。同時に、性指向にかかわる自殺未遂が回答者全体の6.4%にみられていたこと、10代のメンタルヘルスがもっともそこなわれていること、が報告されています。

7.同性婚、ドメスティック・パートナー制度について

2010年8月現在、同性婚やドメスティック・パートナー制度を認めている国・地域は以下のとおりです。

同性婚を認めている国・地域

オランダ、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガル、アイスランド、アルゼンチン、カナダ、米国のマサチューセッツ州、カリフォルニア州、コネチカット州、アイオワ州、バーモント州、メイン州、ニューハンプシャー州、ワシントンD.C. 南アフリカ

パートナーシップ法(異性カップルに準じる権利を認める制度)を認めている国・地域

デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、グリーンランド、フランス、ドイツ、フィンランド、イギリス、ルクセンブルク、イタリア、アンドラ、スロベニア、スイス、チェコ共和国、アイルランド、米国のハワイ州、バーモント州、カリフォルニア州、ニュージャージー州、メーン州、コネチカット州、ブラジル、メキシコのメキシコシティ、メキシコのコアウイラ州、ウルグアイ、ニュージーランド、オーストラリアのタスマニア州、オーストラリア首都特別地域

同性カップルの権利を保障する国・地域

イスラエル、ハンガリー、オーストリア、クロアチア

現在、法案を検討中か議論が始まっている国

リヒテンシュタイン、エストニア、中華民国(台湾)、中華人民共和国、カンボジア

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